物語

記憶のリセットボタン

月のない漆黒の夜に現れる…。

すべてを消しさる悪魔、「エクリプス」

『そう‼︎ ワタシの事なのだ、はっはっはっ‼︎』

『へぇー、エクリプスさんって言うのね。』

『・・・えっ…。』

この悪魔、人を陥れるほど怖いのだが、少し間抜けなのである。

誰もいない場所で声をあらげるのはわかるが、ここは病室の前の木であった。

『すべてを消すって、何でもできるの?』

『フフッ‼︎愚問だな、体も心もすべて消してしまう…どうだ、怖い悪魔だろ!』

『ふーん…じゃあ、私のパパの記憶を消してよ。』

この娘は病気がちで、何度も入退院を繰り返していたが、とうとう…今日死ぬのであった。

『私が死ぬとたった1人の家族であるパパは悲しむ。だから、私がいた記憶を消して欲しいの。』と娘はエクリプスに願ったのだ。

『悪魔に願うなど、幸せにはなれんぞ…。』

『いい…どうせ死ぬもの。』

エクリプスは考えた。 

『どーせ、する事もないし暇つぶしにもなるだろう。』と、この娘にリセットボタンの話をした。

『おい、娘。よく、聞け…このボタンは、名前を言って押すとそいつの記憶が全て消えるのだ…。よく考えて、押すのだぞ。』

この後、娘は目をつむりながら、

病気で辛かったが、楽しい事もあった。

短い人生だったけど、たくさんの愛を感じて…

今は寂しいけれど、幸せだったと話をした。

『あぁ…そろそろ、眠たくなってきたなぁ。』

『娘、そろそろ死ぬのか?さぁボタンを…。』

『パパ、ごめんね、ごめんなさい…。

でも、パパのもとに生まれて私は幸せだった…。

…パパも幸せな時間を過ごしてね。』

…。

『ありがとう、エクリプスさん。』

カチッ…。

娘は父を思い、何を思ったのか。

悪魔の名前を最後に息をひきとった。

『月のない漆黒の夜に現れる…。すべてを消す悪魔、『エクリプス』…そう‼︎ ワタシに消せないものなどないのだ、はっはっはぁ……。う〜む、何か忘れているような…。』

時間はみな平等である。

しかし、1人1人に限られた時間は違うのである。

無常にも、今もまた、1秒…1秒と時間は進む。

そして、人はみな臆病である。

だからこそ、人は集まり、互いを励まし合い、自分を安心させる身勝手な理由を作って、死ぬ準備をするのであろう。

ただ…誰もが死んだ後も忘れてほしくないものなのである。

[第7話]