この世界に住む人々は、1人ひとり違う。
言葉も違えば、性格も違う。
よく出来る人もいれば、出来ない人もいる。
サンタクロースも同じである。
ここにサンタクロースだが、全く仕事が出来ない男がいた。
この男はやる気がないわけではない。
文字が読めないのだ。
もうすぐ12月25日。
男は、また頭を抱えていた。
サンタクロースには、世界中の子ども達からプレゼント注文の手紙が届く。
その手紙は各担当者に配られ、注文商品を配達先に届けるのがサンタクロースの仕事だ。
だがこの男、文字が読めない。
しかも、手紙をもらうのはクリスマスイブ。
同僚のサンタクロースに『なんて書いてあるの?』って聞きたくても、みんな自分の担当だけで手がいっぱい。そんな事聞ける状況ではないのである。
『手紙を置いといて、クリスマス以外の日に聞いて文字の勉強をすればいい』って?
そんな事をすれば、配達が出来ていないって怒られて、仕事を失ってしまう…。
クリスマスにプレゼントが届いていない友達はいませんでした?
12月25日にプレゼントの会話に入ってこない友達はいませんでしたか?
この男のせいである。
男は追い詰められていた。
今年こそはプレゼントをお渡しして、最高のクリスマスにして頂きたいと張り切っていた。
男は考えた。
真面目に考えたのだが、解決策がない。
悩みに悩んだ結果、担当場所のお父様とお母様に謝り、来年からはサンタクロースの仕事を辞めようと決意した。
クリスマスイブ、当日。
プレゼントの代わりに沢山の菓子折りを積み込んだ、この男。
今まで一緒に働いてくれたトナカイにもお礼の気持ちとして、いつもより高めの草をプレゼントした。
いつもと違う男の姿に、トナカイは張り切って配達先へ向かった。
一軒目に着いた。
3階建ての細い建物の家だった。
さすがに呼び鈴でご挨拶をすれば、ただの菓子折りを持った、サンタクロース姿の変質者である。
サンタクロースっぽく、子ども部屋に向かった。
最近は夜遅くまで起きられているご家庭が多い中、この家のお子様は教育がなされているな…と男が感心したその時、お子様とバッチリ眼があった。
嘘寝である。
いつも、自分だけプレゼントがないこのお子様。
お父さんとお母さんに、『なんでうちだけ、サンタさんは来てくれないの?』と訴えても、『良い子じゃないからかな?』と言われ、悔しい思いをしてきたこのお子様。
『プレゼントなかったんだ。』と普通に聞いてくる友達の方が、良い子じゃなくない?
一回サンタクロースに文句を言ってやろうと、このお子様は張り切っていたのである。
男はあわてふためき、とりあえず軽く会釈した。
だがお子様は、男を自分の横に座らせた。
ここからは、男とお子様の会話内容である。
あなたは、サンタクロースで間違いありませんか。
はい、さようでございます。サンタとお呼び下さい。
では、サンタさん。僕に会いに来てくれたのですか。
あの…これをどうぞ、菓子折りです。
これは、えーっと…。とりあえず、ゆっくり話しましょうか。
この後、男はお子様の質問攻めにあい、ついに文字が読めない事を教えてしまったのである。
するとお子様は、怒るそぶりもなくこう答えた。
では、今から文字の勉強をしましょ!サンタさん!
男は驚いた。絶対呆れられるって思っていたから。
お子様は男を勉強机のイスに座らせ、教科書を開いた。男と一緒に一文字、一文字、覚えられるまでゆっくり何度も教えた。男もそれに答えるように必死に覚えた。
日付は変わり、クリスマス。
男はだいたい読めるようになった。
なんとなく文字が読めるようになりましたね。僕にくれたお菓子の箱、まだ配らないと行けませんよね?この教科書をサンタさんにプレゼントします。この後も頑張って下さい!
プレゼントを渡す側が、プレゼントを受け取ってしまった。
男はソリに乗り込み、申し訳なさそうにお子様にこう話した。
あの、どうしてここまでしてくれるのですか。
するとお子様は笑顔でこう答えた。
生まれて初めてクリスマスプレゼントをもらったからです!さぁ、急いで、サンタクロースさん!
男は、深々とお礼をしてお子様の家を後にした。
男は、担当の配達先に行き、お父さんお母さんに菓子折りを持って謝りにいった。
ヘトヘトになって男は帰宅した…生まれて初めてもらったクリスマスプレゼントを持って。
男は、お子様が頼んでいた本当のプレゼントは何だったのか気になり、手紙を手にした。
教科書を見ながら、手紙の文字を読んだ。
そこには、こう書かれていた。
『ぼくのいえにも、サンタさんがきてくれますように。』
そのサンタクロースは、次も、また、その次のクリスマスもプレゼントを配りにいきました。子どもたちが、最高の朝を迎えられるように。
[第5話]