街のまんなか…よりも少し離れた、誰もいない家の、またその横にある木にミツバチたちの巣がありました。
ミツバチたちは、今日も大忙し。エサを取って、運んで、子どもたちに食べさせて、あちらでブンブン、こちらでブンブン。
あれあれ、みんなとは違う方へ飛ぶミツバチがいるよ。
その名は、アーチ。
街が大好きで、あっちこっち飛び回るから、みんなから、アーチと呼ばれていました。
なんたって、他のミツバチよりも大きな羽根は、アーチの自慢。そのおかげで、遠い街まであっという間のブーンでした。
街に行って何をしているのかな?
ただ、アーチはいつもワクワク。見たことのない建物や生き物。いい匂いのする大きなエサ。他のミツバチたちは知らないアーチだけの時間。
でも、良いことばかりは続きません。
暗くなる前に帰ろうとするアーチに襲いかかったのは、大きな羽を持ったツバメでした。
なんとか逃げ切ったアーチ。だけど、自慢の羽根は穴だらけ、きいろい体は傷だらけ。
弱ったミツバチを助けるミツバチたち…。その日から、アーチは飛べなくなりました。
あの日からアーチは巣から出ては、外を見る。遠い遠い街が見えないか、外を見る。今日も働こうと思った、その時。大きな黒い何かがこっちにきてる。
アーチは知っていた、ツバメだ。
だから、みんなに逃げてって羽根を鳴らした。
ミツバチたちは逃げた。子どもや食べ物を持って慌てて逃げた。
ミツバチが1匹飛べていない。
アーチだ。
大きな羽根を広げたツバメを見たアーチ。あまりの怖さに気を失い、巣から落ちた。
アーチが目を覚ますと、飛んでいた。他のミツバチたちに抱えられながら、飛んでいた。
ミツバチのみんなが、アーチを助けたのだ。
あっちこっち飛び回って見つけた。特別な場所をアーチはみんなに教えた。レンゲやアカシヤ、ミカンの花が咲く場所。
アーチは飛べないミツバチ。
それは、これからもずっと変わらない。
だけど、今日もミツバチたちがアーチに集まってくる。あっちこっちの街の話を聞きに集まってくる。
[第16話]