物語

虫の音が降る夜に

「むかし、むかしの、そのまた昔。大きな木のその下に、アリたちの家があったとさ。葉っぱの色は赤色、黄色。食べ物届くよ、エッサラホッサラ。アリたち運ぶよ、エッサラホッサラ。ここで奏でるヴァイオリン。踊って弾くよ、キリギリス。エッサラホッサラ、テララン、テララン。エッサラホッサラ、テラランテララン。」

私は、父や母よりも祖母と寝る事が多かった。理由は単純。「早く寝るように!」と怖い顔する親よりも、いつも包み込むような微笑みをする祖母の方が甘えさせてくれるからだった。

あと、昔話とその子守り歌を寝つけない私によく聞かせてくれた。

当時の私は幼いながらも何でも自分でやりたい、手伝いがしたいと自己主張の強い子だった。上手くすれば褒められていたけど、失敗の方が多かったから、よく叱られた。

あっ、ちなみに皆さんは、『アリとキリギリス』の話は知ってます?簡単に説明すると、冬を越す為に、アリたちは協力して食べ物を巣に集めます。しかし、それを見ていたキリギリスは真面目に働くよりも遊んでいる方が良いじゃないかとヴァイオリンを奏でてアリたちを馬鹿にします。冬になり、食べ物が取れなくなったキリギリスは、アリたちに助けを求めます。アリたちはキリギリスを許し、共に冬を過ごしたというお話です。

このお話は、「キリギリスはダメな奴だ、遊ばず真面目に働けー!」って思われがちですが、おばあちゃんの解釈は違いました。

「キリギリスは、冬を越すまでに死んでしまうの。だから、このキリギリスは長生きで、誰かの助けを借りなければ生きれなかった。今の私と一緒だねぇ、ウフフ。」でした。

「昔話の世界観があるのだから、その考え方は間違っている!」って思われると思われますが、私の解釈も違いました。

「キリギリスは、最後まで真面目に働いたんだ…。」

学校の先生や友達にこの話をすると、「キリギリスが悪い!」って言うのに、おばあちゃんは「どちらも悪くない、キリギリスは失敗していない。」って、教えてくれました。

とまぁ、前置きはこれくらいにして…皆さん、初めましてアリのアンです。今からお話するのは、大好きなおばあちゃんと私の[奇跡]のお話です。

アリの世界にも、「何でも出来る」アリと「何も出来ない」アリがいる。せっかくアリに生まれたのなら、やっぱり出来る側になりたい。というか、周りから凄いと認められたい方が本音だ。

みんなが食べ物を運ぶ道も、もともとあったわけじゃない。それは、一匹のアリが勇気を持って開拓したはず。

そんな凄いアリに私は憧れた。

その為に、自分よりも大きな食べ物を運んで、新しい道を作ってみたりとまぁ…色々した。

でも結果、食べ物を傷つけてダメにして、道に迷って探してもらったりとまぁ…色々あった。

無理してみんなに頑張るなって言われた。

みんなには笑って気にしない素振りをしていたけど、そんな事はない。

頑張りたいのに結果が出ないのは、傷つく。

そんなどうしようもない感情を拾ってくれるのは、いつもおばあちゃんだった。

おばあちゃんのあの歌、お話が大好きだった。小さい時に、それを聞いて自分に出来る事を頑張ろって思えた、原点だったから。

だけど…ずっと何も出来ないアリのまま。

私も子どもから大人へ、そしておばあちゃんはよりおばあちゃんになった。

とうとう、何も話せてなくなったおばあちゃんが住む世界を変えようとしていた。

何かしてあげたかった。

アリの世界に神様もサンタクロースもいない。

他人に頼る事はないというか、知らない。

ただ、いつも通り集団行動からはみ出さず働く事が当たり前だと思っている。

だから、働けなくなったものは、ただ終わりを静かに待つだけ。それは、凄いアリも同じ。

少しでも、穏やかに…とあの歌を口ずさんだ。

「むかし、むかしの、そのまた昔。大きな木のその下に、アリたちの家があったとさ。葉っぱの色は赤色、黄色。食べ物届くよ、エッサラホッサラ。アリたち運ぶよ、エッサラホッサラ。ここで奏でるヴァイオリン。踊って弾くよ、キリギリス。エッサラホッサラ、テララン、テララン。エッサラホッサラ、テラランテララン。」

もしかしたら一緒に口ずさんでくれるかも…という期待はあったけど、叶う事はなかった。でも、どこか穏やかな顔をして眠るおばあちゃんがそこにはいた。

[奇跡]って、言葉があるから不思議と何かが起こるんじゃないかって思ってしまう。

でも、そんな事は滅多にというか、起きずに終わる事がほとんど。

わかっているのに、裏切られる方が高いのに、ほんの僅かな可能性に期待してしまう。

ただ、おばあちゃんが元気になるという奇跡はなかった。

おばあちゃんとの思い出を振り返っていると、あの話に続きがあったのを思い出した。

「キリギリスは、冬を越すまでに死んでしまうの。だから、このキリギリスは長生きで、誰かの助けを借りなければ生きれなかった。今の私と一緒だねぇ、ウフフ。でも…最後まで楽しい時間をみんなと一緒に過ごして幸せだったんだろうねぇ。」

こうして、おばあちゃんに出逢えた事が、私にとって[奇跡]だったんだとクリスマスの日にそう思った。

[第12話]