物語

墓守りクロール …4

真剣な顔をして、ベルは話を切り出した。

じゃあ…私の大好きな彼が今どう過ごしているか、その話からお伝えしてもよろしいでしょうか?

ダメです。本編を始めて下さい。

はい。あのリリーって子…殺されてはいなかったわ。死因は、脳出血による脳死。

そうだったんですね…じゃあ、なんで死因が空白だったんでしょうか?

そう!そこなのよねぇ…あの子、臓器ドナーの登録をしていなかったのに、臓器提供されたみたい。身寄りがなかったみたいだし、こんな世の中だからなのかなぁ…。

そうだったんだ…。

リリーさん、聞いていたんですね。

うん。じゃあ、私は1人…勝手に死んじゃってたんだね。

何よぉ、そんな顔しないの!はいはい、ベルちゃんが慰めてあげるから!まぁ、あと一応、勝手に取られたあなたの臓器。どこに行ったのか調べておいたけど、聞いておく?

リリーは悩みながらも、聞く事にした。

ベルが言う場所、名前をクロールが紙に書き写した。

あっ…この場所。

リリーが注目した場所。

クロールは確信した。

一度、会いに行ってみますか?

2人は、心臓移植が行なわれた少女の住む、アルカドロ孤児院へ向かった。

道中、会話はなかった。

そもそも、する必要もなかったのかもしれない。

アルカドロ孤児院へ着き、先に話したのはクロールであった。

ボクもここで、育ててもらいました。

そう…私も。あっ、アルカドロ先生だ。

これこれ、フィーネ。そんなに走り回ってはダメじゃないか。手術は成功したけど、まだまだ体に馴染むまでは激しい運動はよしなさい。

あなたは見えるんだから、先生に挨拶したら?

いえ、こんな嫌われ者が近づく孤児院だとバレたら、また寄付が減ってしまいます。

なんで、名前を変えたの?

ボクの話はまた今度。ほら、フィーネさんでしたっけ、走っているだけで嬉しいそうですね…。

勝手にされたけど、役に立ったのかなぁ…私の心臓。生まれた環境にも負けず、死ぬ気で勉強して、やっと看護師になれたのに、本当に死んでしまうだなんて。

アルカドロ孤児院は、健康な身体、普通の生活、そして家族に恵まれなかった子どもたちを集めた施設である。子どもたちが共同生活をする中で、身近に見てきたのは仲間の死。

「16歳以上生きた者だけが孤児院を出て、町で自由に生きていける。」と、そんな夢半ばで逝ってしまった仲間たちを見送ってきた2人は、誰よりも「死」を意識してきたのかも知れない。

ベルさん、こんな事も言っていましたよ。ホズミック・クリニックの人たち…リリーさんの死を聞いて、すごい泣いてたって。

そっか…。

正直、リリーさんが羨ましいって思いました。

どうして?

僕が死んでも誰も気付かないからです。だから、この世からいなくなったリリーさんを嘆き悲しんで涙する人がいた。それって、とても良い人生だったんじゃないですかね。

そっか…、考えもしなかった。良い人生だったんだ。

2人はアルカドロ孤児院をあとにした。

帰り道、会話はなかった。

ただ、リリーは微笑みながらクロールと墓地へと帰るのであった。

[第9話-4]