あぁ…どれだけ普通に憧れ、自由を望んだか。
目を瞑ると今でも思い出す、無知な自分。
周りの人間(ヒト)とは自分は違う。
なぜ、こんな環境に生まれたのか…。
自分に目を向けない日々が、悪事を生んだ。
後悔などはもう遅い。
へばりつく雑念が、心をむしばみ、そして、普通の人間(ヒト)という生き物をやめるきっかけになった。
死は何もない「無」であると思っていた。
ただそれは、見えない者のただの常識…。
死後の世界は、確かに存在したのだ。
フール町から離れた墓地、ここに1人の青年がいた。
その名は、クロール。
灰色の薄汚いマントで体を覆い、夜な夜な、亡くなった人間(ヒト)を土の中へ埋め、動物たちが掘り起こさないように墓守りをしていた。
死者を尊み、墓を守る仕事。
だが、クロールは町の人々から嫌われていた。
この時代、医療は進歩していたが、新な疫病で亡くなる人間(ヒト)は多かった。そのため、死んでからも病原菌は残っていると町の人々は信じ、死人に近づく事を嫌がった。
しかし、誰かが埋葬しなければいけない。
クロールもまたその犠牲者だった。
クロールは死人と同じ様に扱われ、町に近づく事を禁止された。食料を買いに町へ向かうならば、死人を扱う墓守りの者だと分かるように、黒い杖を持つ事を義務づけられていた。
人々が好まない墓守りの仕事だか、クロールは決して嫌ではなかった。
誰かがしなければ、墓に入れない。
この世に生まれ、人々に貢献したはずなのに、誰からも感謝されない。
「生きた人間から求められないが、死んだ人間からは求められる。」
そんなこの仕事に使命感すら感じていた。
ただ、他の墓守りとは違う理由が…もう一つ。
おい、クロール。また、お前1人でパンを食っているのかい?
うるさいなぁ、オルじぃ。ボクには生きている友達はいないんだ。さぁ、また話し相手になっておくれよ。
クロールには死者と話せる力があったのだ。
なぜ、そんな不思議な事ができるのかは…また今度のお話。
ーーーーー------ー---
〈依頼書〉
日時:10月16日
名前:リリー・マーガレット
性別:女性
年齢:23歳
家族:なし
職業:看護師
原因:
方法:土葬
ーーーーー------ー---
今日もクロールのもとへ町から依頼書とご遺体の入った棺が到着した。
あなたがクロールさん?
黙々と土葬の準備を進めるクロールに彼女は話かけてきた。
私、死んじゃったのね。ねぇ、化粧して綺麗な顔になってる?お気に入りのワンピースは着ているかしら?ねぇ、ねぇってば。
あまりに話しかけてくる彼女にクロールは質問をした。
あなたは、リリー・マーガレットさんですか?なぜ、ボクの事を知っているのですか?
やっぱり話は本当だったのね、そう私はリリー。さっきそこのおじい様が教えて下さったの。ねぇ、何で私はここに来たの?ここって、疫病になった人しか来ないところよね?
オルじぃの奴…。たぶん、死亡原因が空白だからだと思います。こんな時代だから、ちゃんと調べずに処理する事があるんです。
そうなんだ。まぁ、私には家族もいないから誰も不思議に思わないか…。でも、じゃあ何で死んだんだろ?
では、棺を開けて少し体を見てみましょうか?
いやよ!恥ずかしいじゃない!クロールさん、私の住んでいた宿舎に一度行ってみましょう、何か分かるかも…。さぁ早く‼︎
町に行けない理由を説明しても、リリーは聞く耳をもたなかった。
クロールは渋々、マントを被り、杖を忘れずに持ち、町へと向かった。
[第9話-1]