真剣な顔をして、ベルは話を切り出した。
じゃあ…私の大好きな彼が今どう過ごしているか、その話からお伝えしてもよろしいでしょうか?
ダメです。本編を始めて下さい。
はい。あのリリーって子…殺されてはいなかったわ。死因は、脳出血による脳死。
そうだったんですね…じゃあ、なんで死因が空白だったんでしょうか?
そう!そこなのよねぇ…あの子、臓器ドナーの登録をしていなかったのに、臓器提供されたみたい。身寄りがなかったみたいだし、こんな世の中だからなのかなぁ…。
そうだったんだ…。
リリーさん、聞いていたんですね。
うん。じゃあ、私は1人…勝手に死んじゃってたんだね。
何よぉ、そんな顔しないの!はいはい、ベルちゃんが慰めてあげるから!まぁ、あと一応、勝手に取られたあなたの臓器。どこに行ったのか調べておいたけど、聞いておく?
リリーは悩みながらも、聞く事にした。
ベルが言う場所、名前をクロールが紙に書き写した。
あっ…この場所。
リリーが注目した場所。
クロールは確信した。
一度、会いに行ってみますか?
2人は、心臓移植が行なわれた少女の住む、アルカドロ孤児院へ向かった。
道中、会話はなかった。
そもそも、する必要もなかったのかもしれない。
アルカドロ孤児院へ着き、先に話したのはクロールであった。
ボクもここで、育ててもらいました。
そう…私も。あっ、アルカドロ先生だ。
これこれ、フィーネ。そんなに走り回ってはダメじゃないか。手術は成功したけど、まだまだ体に馴染むまでは激しい運動はよしなさい。
あなたは見えるんだから、先生に挨拶したら?
いえ、こんな嫌われ者が近づく孤児院だとバレたら、また寄付が減ってしまいます。
なんで、名前を変えたの?
ボクの話はまた今度。ほら、フィーネさんでしたっけ、走っているだけで嬉しいそうですね…。
勝手にされたけど、役に立ったのかなぁ…私の心臓。生まれた環境にも負けず、死ぬ気で勉強して、やっと看護師になれたのに、本当に死んでしまうだなんて。
アルカドロ孤児院は、健康な身体、普通の生活、そして家族に恵まれなかった子どもたちを集めた施設である。子どもたちが共同生活をする中で、身近に見てきたのは仲間の死。
「16歳以上生きた者だけが孤児院を出て、町で自由に生きていける。」と、そんな夢半ばで逝ってしまった仲間たちを見送ってきた2人は、誰よりも「死」を意識してきたのかも知れない。
ベルさん、こんな事も言っていましたよ。ホズミック・クリニックの人たち…リリーさんの死を聞いて、すごい泣いてたって。
そっか…。
正直、リリーさんが羨ましいって思いました。
どうして?
僕が死んでも誰も気付かないからです。だから、この世からいなくなったリリーさんを嘆き悲しんで涙する人がいた。それって、とても良い人生だったんじゃないですかね。
そっか…、考えもしなかった。良い人生だったんだ。
2人はアルカドロ孤児院をあとにした。
帰り道、会話はなかった。
ただ、リリーは微笑みながらクロールと墓地へと帰るのであった。
[第9話-4]