昔々、数多の生き物が自由に生きていた時代。
どの種族も自分たちが生き残るために、必要な分だけの命を頂き、子孫を残そうとしていた。
堅苦しい規則などない。ただ、この星に生まれ、それぞれが生きる意味を持ち、その使命を全うして死んだとしても、何も疑いなどなかった。
しかし、いつしかこのことわりに怯える生き物が産まれた。その生き物こそが「人間」である。
この時代に生きていた人間は、まだ言葉も知らず、今ある文明も築いていなかった。だからこそ、過弱き人間たちは生き残るために進化を続けた。
ある人間は考え、「個」ではなく、「集」で動き始めた。次第に集で上手く動くために言葉を得る。そして、命を紡ぐために知恵を使い、道具を作った。
この進化は止まる事がなかった。そして、人間たちは自分たちの命を脅かす生き物の頂点の殲滅を企てた。
その生き物を人間たちは『ドラゴン』とよんだ。
時は経ち、「集」は「村」となり、やがて「国」を築き上げた。この国に住む人間たちは、己の身を守りつつドラゴンと戦うために、装具を作った。
幾度となく、ドラゴンと戦う日々。失敗はやがて「経験」となり、その経験は更に「知恵」をつけさせ、大きな力となった。そして、人間たちはドラゴンを殺す脅威にまで変貌したのだった。
ドラゴンたちは戦った。この星のことわりを守る為に…。しかし、人間たちの激動を止める事はできなかった。
あと1匹、ドラゴンを殺す事で、人間たちは数多の生き物たちの頂点に立つ事ができた。しかし、どこを探しても、そのドラゴンを見つける事が出来なかった。
唯一生き残ったドラゴンは、この星のどことも繋がる洞窟へ逃げ込んだ。そこは人間たちの知らない、ドラゴンだけが知る場所だった。
洞窟の奥深い場所で身を潜め、ドラゴンは静かに眼をとじた。
あの日から何百年、何千年経った。
身を潜めて寝ている間も洞窟の外では、大きな音が鳴り止まなかった。
頂点に立つ生き物として、人間はあまりに多すぎのだ。その結果が人間同士が殺し合う「戦争」へと繋がった。
ドラゴンは知っていた。この星が人間を使って終焉の日を待っていた事を。
どこかで雨がよく降る日だった。戦場から逃げてきたのだろう…銃を持ち、今にも死にそうな人間の子どもが現れた。
子どもはドラゴンを目の前にし、一度は銃をむけたが、すぐに撃つのをやめた。自らがもう生きれないと悟ったのだ。
ドラゴンは哀れに思った。目の前にいる人間の生きる世界は、同族を殺めなければ生き残れない。この星の犠牲者は、人間なんだと悟った。
今にも命の鼓動が終わりを告げようとしていた。
ドク、ドク…ドク……ド……。
ドラゴンは死んだ子どもと同じ様に、また静かに目を瞑った。
[第19話]